ゆうちょファイン○○号掲載
いちだ・ひろみ
1932年大阪生まれ。京都府立大学短大国文科卒業。会社勤務、女優を経て服飾評論家に。海外での着物ショーのプロデュース、大学講師、ドラマ・CM出演など幅広く活躍中。著書も多数。
服飾評論家
市田 ひろみさん
 
若い頃から将来の“人生設計”
“経済設計”をしておくことが大事ですよ。
 短大を卒業したのが、昭和28年。20歳でした。
日本も貧しい、企業も貧しいという時代で、就職試験を10社くらい落ちた後、大阪の駅前にある機械メーカーに就職したんです。やっと入れたからうれしくて、頑張ろうと思ってましたね。毎朝5時半に起きて、6時半に京都の家を出るんです。自分でお弁当つくって。それで、駅まで30分歩いて、大阪の梅田まで急行で片道1時間半。会社での仕事はデスクワークが中心で、書類を出したり、時には接客も。夕方また、1時間半かけて帰る。それからお稽古ごとに行くんです、月曜から金曜まで毎日。お茶、お花。それから英会話、英文タイプ、洋裁。家に帰ってくるのは9時頃で、それから夕飯食べて、銭湯へ行って一日が終わる。そういう生活を3年間やって、一回の遅刻も一日の欠勤もしませんでした。その時代の蓄積が、今日の私をつくってると思うんですよね。
 当時の思い出といえば、初月給の日のこと。大阪の駅前で、当時流行っていたヘップバーン・シューズと、家族のためにケーキを買って帰りました。給料は、いくらか家に食費を入れて、いくらかは郵便局に貯金。当時はそれが当り前でした。
 今の若い人は、一見、自由に楽しく生きてるように見えるけど、将来に対しての設計ができていない人が多いですね。“今”の欲望に負けて、自分の収入に見合った生き方をしてない。親に依存してるんですよね。でも、成人するまで親の世話になったんだから、給料をもらったら家に食費くらい入れなきゃいけないし、将来の病気や大きな買い物に備えて蓄えもしなくちゃいけない。そういう“人生設計”“経済設計”をしておいてこそ、長い人生を幸せに生きられるんだと思いますよ。
会社勤務時代の1枚。新製品の広告などのモデルをすることも多かったとか。この後、習っていたお茶の先生の推薦を受けて大映から女優としてデビューし、数々の映画に出演した。
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